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密度行列繰込み群 |
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『密度行列繰込み群・テンソル積形式による相転移現象の解析』
固体の磁気的な性質(磁性)は、温度や圧力などの条件によって様々に変化することがあ
ります。磁性は、固体中を動き回る電子や、格子を組んでいるイオンのスピン磁気モーメ
ントに由来するのですが、スピンの間に働く量子力学的(または電磁気学的)な相互作用
は磁気モーメントを揃えようとし、いっぽう熱の作用は磁気モーメントをバラバラな方向
に乱そうとします。この微妙な釣り合いが、磁性の変化(磁気相転移)を司っています。
ところで、固体の原子配列も温度や圧力によって変化することが知られています。(構造
相転移)この変化は、隣り合う原子の間に働く力と、原子を揺さぶる熱の作用のバランス
を考えれば、定性的に説明することができます。磁気相転移と構造相転移は、一見すると
全く違った現象なのですが、相転移が起こる仕組みには共通点があるわけです。このよう
に、個別の現象を超えた物理的な共通点は「普遍性」と呼ばれます。多様な固体の性質を
分類したり、統一的に説明しようとすれば、普遍性という概念を避けては通れません。
相転移現象の普遍性を探る方法の一つとして、(1) 単純なモデルを仮定して、(2) その性
質を数値計算で求め、(3) 実際の物質が示す性質と比較する --- という「数値シミュレー
ション法」が良く知られています。モデルと実際の物質の間に、共通点があるかどうかを
コンピューターで調べようという試みです。但し、単純なモデルとは言っても、そのまま
取り扱おうとすると計算機がパンクします。そこで、解析に重要な情報は精密に取り扱い、
そうでないものは圧縮してしまう「繰り込み群」の考え方を持ち込みます。与えられたモ
デルの性質が失われないように、この圧縮を行う手法 --- 密度行列繰り込み群 --- の開
発が、現在の私の研究テーマです。
少し視点を変えると、密度行列繰り込み群は「物理系そのものの圧縮方法」とも解釈でき
て、急速に発展している量子情報理論の解析にも用いられ始めました。一つの解析手法が
様々な問題の解明に使われる、これも物理的な「普遍性」の一つと言えるでしょうか?!
ところで、21世紀を迎えて物理学の世界にも少し新しい風が吹き始めました。情報理論
を量子力学的に考える量子情報理論の出現です。これがどうやら、統計力学や素粒子理論、
そして重力理論と密接な関係を持つことが、段々と浮かび上がって来たのです。興味深い
ことに、「密度行列繰込み群」の基礎となるテンソル積形式は、量子情報理論でも良く使
われる理論的な標準形なのです。どうしてこのような共通点があるのでしょうか?このよ
うな疑問を掘り下げる日々です。