物理学悪魔の辞典

●アノーマリー
 うちの研究室には、ちょっとアブナイお姉さんが居る。口を開けば、
 二言目にはアノーマリー。アブノーマルな彼女は、こう呼びかけら
 れる: 「あのー、マリーさん?!」 

●アジ化ナトリウム(致死性毒物!)
 研究室で出勤したてにコーヒーを飲んだら、塩辛い。先輩は叫んだ!!
 「味がナトリウム!!」、単に砂糖と塩を間違えただけだった。

●泡箱
 目に見えない粒子の軌跡を描かせる実験道具だったけど、半導体が進歩した
 現在では次第に出番が少なくなり、次々と取り壊しの運命に。さる人いわく、
 「泡 (バブル) が潰れた」

●アンサンブル
 デパートの外商サロンに足を運んで、ソレとなく聞いてみよう。

  「カノニカル アンサンブル は扱っていますか?」

    --- 「かのにかる? アンサンブル? ですか?」

  「ええ、その筋 ではけっこう有名なのですけど、御存じないですか?
   あらゆる情況を考えた素晴らしいアンサンブルとして、注目されています」

    --- 「すみませんが、私どもでは扱っておりません。」

  「ではもう少し高級な グランド カノニカル アンサンブル はいかがでしょうか?」

 ....などと、あまりオチョクリすぎると馬脚が露呈するので、適当な所で切り上げる
  のが良い。

●衣食足りて礼節を欠く
 何を命令されても「ハイ先生、左様でございます。」と礼儀をつくしていた
 学生が、助手になった途端「えーっ、それは無茶ですよ、センセー」と態度
 をひるがえす、みにくい光景。これではイケナイ。仮にも物理屋たるものは
 「衣食にかかわらず礼節を欠く」様でなければならない。

●ウラン
 かの有名なランダウは、国防軍秘蔵のウラン 235 を目のあたりにして、
 「ウランだウランだウランだウランだウランだウランだウランだ〜」と
 叫んだそうだ。

●運動量
 「仕事と運動量」を理解するのが物理学習の始まり。仕事で収入を得ようと
 考えたり、運動で健康増進しようと思う人は物理には近付かないのが良い。

●エイジング・モデル
 イジングモデルに似ているが、関係ない。大学の研究環境で歳を重ねる
 ごとに、石頭になってゆく様をシミュレートする模型である。大抵、50
 歳くらいで脳細胞がゾル・ゲル転移を起こす。

●エレクトロ・コンプレクス
 エレクトラ・コンプレクスに似て非なるもの。固体内部では、クーロン
 力は短距離になり、エレクトロン同士が「近接相関」する。「近親相●」
 ではない。いずれにせよ、「出口の無い問題」であり、これにハマった
 ら人生を棒に振る。

●懐石力学
 いにしえより伝わる由緒ある学問。清純な所に引かれて、病みつきになる人も
 多い。フレンチなレストラン「ラ・グラン・ジュ」(華麗なる法悦) に弟子入り
 すると、その秘伝をかいま見るであろう。物理の鉄人にも和洋中があるゾ?!

●核実験
 「ご専門は? 」と聞かれても、「原子核実験です」と答えてはならない。巷で
 は、「原子炉」+「核実験」=「原子核実験」と思っている人が大半であるから
 である。「ハイパー核です」とか、「ハドロンです」と答えておくのが無難で
 ある。なお、原子核研究室が潰れたら、これぞ「原子核の崩壊」

●可解モデル
 厳密に解けるのが可解モデル、解けないのは非可解モデル、理解不能
 なのが不可解モデル。

●かすみ
 素粒子理論屋は、仙人のごとく「かすみ」を食う。  (飢えには強い)
 物性理論屋は「カス」を食って重箱の「すみ」を突く。(乞食根性アリ)
 ちなみにイタリア人は「イカすみ」を食う。     (そもそも飢えない)

●軌道
 新しい物質の性質を求めて「軌道の自由度」を考慮しつつ、手当りしだいに化合物を
 測定して行く人々は「軌道電子ランダム」と呼ばれる。予算取りで「宇宙線管ヤマ下」
 に破れてはならないゾ?! (.... ネタがアニメですみません)

●クラシカル
 物理人と非物理人を一発で見分ける良い方法がある。「古典 (クラシカル) の
 反対語は何ですか? 」と問いかけて「量子 (クォンタム) です」と答えたら物
 理人、「現代/前衛 (モダン) です」と答えるのが普通人。かように、物理人
 は世間の常識から遊離しているのである。

● 計算機科学
  本屋で、いい教科書をみつけたので、研究室に戻ってから、出版社に電話を入
  れた。「もしもし、計算機科学を一冊納品お願いします。」出版社の担当者は
  「はい、お受けいたしました。計算幾何学を一冊ですね。」と返事。届いた本は.....

● 原子核の崩壊
 原研 (科学技術省) の失敗を見るまでもなく、原子力政策は崩壊の瀬戸際にある。
 これぞ「原子核の崩壊」ではないか。「もんじゅ焼き」は派手だったらしい。
 もとより、崩壊の道しか無かったのである。今後は「融合」の道を歩もうでは
 ないか?

● 原子論
 出題: 原子論を提唱したギリシア人はだれですか?
 解答: デモクリト●スです。

●交換関係
 自然単位を取った時、p = i ∇。さて、空間上のスカラー関数 f(x) と p の交換
 関係を計算すると、 [ p, f(x) ] = i ∇ f(x)。右辺に p = i ∇ を代入して、
 [ p, f(x) ] = p f(x) - f(x) p = i ∇ f(x) = p f(x)。ゆえに f(x) p = 0 である。
 (試験の回答で、良く見かけるパターン。)

●ゴールドストーンモード●
 ワインを飲んだら、空になったボトルに丸いゴールド・ストーンを入れてみよう。
 ボトルを少し傾けると、玉は底でユラユラと振動する。それがゴールドストーン
 モード。なお、日本語で「金の玉」が「往復運動する」という表現は、差し控え
 るのが良い。

●誤認委員会
 大阪大学の楽屋オチ。(どうして面白いのかは、出身の方に聞いて下さい。)

●3K仕事
 「ここは真っ暗」「昼夜の区別なく働かされる」「かれこれ、一週間はフロに
 入っていない」 -- ここは国立天文台・衛星軌道出張所、我々は背景輻射観測
 班である。3Kには慣れっこサ!!

● 新奇楼
  「いままでに無い『新奇』な状態」と自画自賛を重ねた予算申請書類を提出、
 果たして蜃気楼のごとく不採択となること。

● 大魔人
 スピン系を研究している人が、突如として「大魔」にとりつかれる有り様。
 口を開けば出て来る言葉が全て「ダイマー」、恐るべしダイマー人 !! なお、
 研究職というのは、概して「大暇人 (ダイひマジン) 」である。

● 多世界論
  量子力学的に観測が行われる度に、世界が分裂するという観測理論の一派。
  実は、恐妻家の物理学者が見る夢の一つ。「別の世界では、オレが亭主関白
  なのだ! 」と哲学的思索を巡らせることによって、今生の慰めとするとか。

● 超流動
  超流動飲料で特許を取ろう!! スムーズなノド越し、飲んだ瞬間に逆立ちす
 ると、あら不思議、口から目から鼻から耳から、ボトボトと流れ落ちる透
 明なしずく。立ち上がったらさあ大変....(お下劣モード)
  老人介護には姉妹品の『超流動食』もよろしく!!

● 哲学
  デカルトいわく、
    「われ思う、故にわれ在り」
  パウリいわく、
    「われ重い、故にわれ在り」

● 計量テンソル
  「計量テンソルって知ってる〜?」
          ----「知ってるに決まってるやろ、ボケ! カス!」
  「伸びたり縮んだりするんだよ〜?」
          ----「歪むのも OK ね。やっぱ、
             軽いテンセルははき心地が違うよね〜。」

● 時間
  19世紀の力学講義: 「これが振り子の運動を記述する運動方程式です。」
           「先生、時間はどうやって計るのですか? 」
           --- 「時間は振り子で計ります。」
  20世紀の量子力学: 「これが原子のシュレディンガー方程式です。」
           「先生、時間はどうやって計るのですか? 」
           --- 「時間は精密な原子時計で計ります。」

●縮退
 この言葉自身が、縮退の一例である。縮退の語源の degenerate とは、
 神に背を向けた堕落した妙な状態を指す。転じて「例外」の意味に使わ
 れる様になり、しまいにはフェルミ縮退まで出現してしまった。神よ....

●シュレディンガーの犬
 「量子力学に非ずんば物理に非ず」という信念を抱いて、シュレディンガーを
 信奉し、日夜シュレディンガー方程式を解く事に血道を上げている人々の事。
 「ボルツマン一派」の人々から、「お前はシュレディンガーの犬か! 」と軽蔑
 されている。

●正義の味方
 「今日は修士論文の提出日、徹夜したのに、もう間に合わない。お助けを! 」
 その時であった! マントをひるがえして仮面の男がやってきた。
 「あきらめてはいけない。私と一緒に頑張ろう! 」
 彼の手伝いもあって、なんとか締切までに提出できた。
 「ありがとう、正義の味方・仮面ライター! 」
 去り行く男の後ろ姿は、どこか教授を感じさせた。

●摂動
 外から小さな影響を加えること、と解釈したいが「摂政関白」なる言葉が
 あるがごとく、完璧に状態を変化させてしまうのが常。教授は学生に研究
 上の摂動を与える、と例えて言えば、一般社会にも理解してもらえようか?

●選択則
 分光学の専門家、研一 (けんいち) 先生の口グセは「選択則」。学生が、どんなデータ
 を持って行っても「それは選択則を満たしているかい?」と質問するので、学生たちか
 らは「選択屋ケンちゃん」と呼ばれている。

●大学病院重点化
 学んで、学んで、更に学んで、ついに社会に出られなかった病人が収容されて
 いる、特殊な病院がある。フラフラとシャバに出歩かれては困るので、豪華な
 設備を備える事にした。これが重点化である。

●対称性
 世の中に、オーバーヘッド・プロジェクターという物があるならば、
 対称性によりアンダーヘアー・プロジェクターという物もあるはずだ。

●太陽エネルギー
 一日中充電しても、3 分で電池切れの「カラータイマー」が点滅を始
 める、情けないエネルギー。目指せ M78 星雲。

●単巻きコイル
 強い磁場を発生させる「金色の丸い」コイル。使うと壊れる使い捨て。
 この「タ・ン・マ・キ」コイル、くれぐれも文字を並べかえて発音し
 ないように。

●超弦理論
 「超ひも理論」という別名もある。本質に比べて数学記号がゴチャゴ
 チャしているので、学習しても本質に到達する前に沈没する人が多い。
 また目指す人の多い割に新境地を開拓できる人間が少ないので、万年
 学生、収入は配偶者頼り、まだまだ続くヒモ人生?!

●チリの差
 「数理物理学者」と「数値物理学者」という妙な区別がある。数理と数値、ローマ字で書く
  と chi か ri か、それだけの差しかないのだけど、なぜか互いにアホにし合うことが良くある
  らしい。なお、口を開くたびにワケのわからないことを言い出すと既に「数秘物理学者」だ。

●デモクリトス
 幾何学の開祖・エウクリデスは、教科書などでは「ユークリッド」と英語化された
 名前で登場する。それならば、デモクリトスは「デモクリット」か?! なんだか、妙
 な響きがするな〜、デモクリト●スのような.... (←「原子論」で既出のネタ。)

●東大一理論
 大統一理論に良く似ているが、チトちがう。東大が一番と信じて疑わない学派
 の事である。まあ、お勝手に。

●ナイトシフト
 大学で生活する時間が段々と夜にシフトしていく現象。

●パイオニア
 物理で「パイオニア」と言えば、あの人しか居ない。ガリレオ? ニュートン?
 いやいや、π-on-eer つまり湯川博士だ。

●πの日
 3 月 14 日に郵便を出すと、「3.14」というスタンプを押してくれる。
 他にも、e の日とか、√2 の日などがある。e-mail のタイムスタンプ
 を使うと、6 〜 7 桁の数字も印字可能。

●BCC 格子と FCC 格子
 Body Centered Curiosity は体が目当て、Face Centered Cuirosity は
 面食いなのである。

●BCS理論
 電子が 2 つペアになって、超伝導が現われるので、Binary Charge
 Superconduction 略して BCS である。

●不確定性関係
 人前で読む時には「不確定性」関係と読まなければならない厄介な関係。
 うっかり「大学で不確定『性関係』を勉強しています」などと言ったら、
 親戚の縁を切られたり破談になったりする。御注意あれ。

●ヘビー・フェルミオン
 「重い電子系は想い想い」と言われ、研究者が 10 人集まると 10 通り
 の「重い電子系」を目にする。想いの深さは人一倍、のめり込むのも
 無理ないこと。なお、半導体のことを「軽い電子系」と言っても良さそ
 うな物だけど、そういう物理用語は今のところ存在しない。

●ヘリウム
 低温実験の研究室は『暗い、汚い、キツい』3K に加えて「ケルビンな
 日々」が続く『4K 職場』と呼ばれている。ヘリウムが蒸発して行くの
 を眺めつつ「ヘリウムが減りウム」などと超寒い駄洒落が出るように
 なったら、貴方は既に 4K まで冷却されている。

●ポテンシャルの山
 「力学」は大学ではじめに習う、いや復習する古典物理だ。ここで導入されるのが
 ポテンシャルという概念で、期末試験には必ず出題される。学生達に伝わる名言を
 一つ紹介しよう。『ポテンシャルに山を張る』これぞ、ひと山越えて単位を取る秘
 訣である。

●ボブソン
 語尾に「オン」が付けば、粒子の名前なのである。世間一般に言って、
 ボソンよりはボブソンの方が有名である。ジャクソンもある、マクソン
 もある、ピアソンもある。ダイソンを漢字で書けば大損、これは砂川
 先生の持ちネタギャグ。(御冥福をお祈りします。)

●ボルツマン因子
 「いんし」と言っても、免許証の更新時に買い求める収入印紙のことではナイ、
 大学院入試、つまり「院試に必要な因子」である。明けても暮れても分配関数
 とボルツマン因子の勉強をしていると、ついつい「バリつまんな〜い因子」
 と思い始めるのだけど、これが「没るマン」への入り口。

●マイセンの磁器
 ドイツはマイセンの陶磁器 (セラミック) には、特別な効果がある。
 煙の出る魔法の液体をかけて「じゅわ〜っ」と冷やすと、浮き上が
 るのである。これぞ知る人ぞ知る驚異・マイセナー効果。

●マクセル
 テープを買うならマクセルのメタル。マックスウェルの悪魔が魔法を
 かけてあるので、保磁力が高い高い。(この伝説は DVD にも受け継がれる)

●マンガン
 マンガン乾電池に向かって一心に祈ろう。放電し終えたら満願成就である。

●メガトロン
 待望の予算が当たって、建設できたゼ、おらが加速器。今日からは院
 生が「1交替制」で 24 時間働くんだ、名づけて「メガトロン」、シ
 フト明けの朝には完璧に目がトロン....

●湯川メソン
 「湯川先生、天国の住み心地はいかがでしょうか?!」
 ---- 「楽しいぞ、メゾン湯川で湯川メソンと戯れておるのじゃ。」

●有効数字
 世の中には「メートル」と「ヤード」、「MKS」と「CGS-esu」など色々な単位がある。
 何故か? と先生に聞いてみよう。
 ---「うまく単位を渡り歩いて、四捨五入を繰り返すと、どんな数字でも得られるんだよ」
 という答えが戻って来たら、その先生は正直なサイエンティストなので、一生の師と仰ぐべし。

●理想気体
 あり得ないものは「理想」と呼ばれる。何でも理想化しすぎると矛盾が吹き出すものだ、大き
 さの無い原子が適度に散乱する辺りで「理想気体」にも論理的な破綻が生じてしまう。ヘリウ
 ムは絶対零度まで気体だろう....という「理想期待」でさえ 20 世紀の初めに砕け散った。
 
●臨海試験場
 ただ海辺にある、海洋の実験設備なのだけど、事故を起こすと「臨海
 事故」になって聞こえが悪いので「海洋試験場」とか「海岸試験場」
 と名前を変えようか? という話も聞く。


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