☆☆☆ 時空上で考える DMRG ☆☆☆

東北大学大学院理学研究科物理学専攻固体統計物理学講座・西野友年
大阪大学大学院理学研究科物理学専攻量子物理学第二講座・奥西巧一
e-mail: nishino@cmpt01.phys.tohoku.ac.jp

. 近年の経緯: White によって確立された密度行列繰り込み群 (DMRG) [1,2] は、一次元量子系に対する精巧な実空間繰り込み群である。(注: 最近になって、同計算法は高速化された --- DMRG++ とも呼ばれる。[3]) Ostlund は、DMRG を変分法として捕え、熱力学極限で一次元量子系の基底状態及び励起エネルギーの運動量依存性を計算する方法を与えた。[4]

. 古典系への DMRG の導入: 一次元量子系の統計力学を考え、量子状態の虚時間発展を経路積分で書き表すと、時間推進のオペレーター exp(-βH) が二次元古典系のボルツマン重率として表わされる。(題名で「時空」と大げさに書いてある物の正体は、この1+1次元系の事である) 従って、DMRG をそのまま次元古典系に持ち込む事が可能である。[5]

。. 密度行列の一般化: で古典系に持ち込まれた DMRG を解析すると、密度行列が「切れ目の入った 2 次元系」に対応している事が分かる。より一般的には、ある勝手なサイズ・形状・境界条件を持った二次元古典系 A が与えられた時、その系を曲線 (又は直線) L に沿って切り開いて得られた系 A' のボルツマン重率は、A の密度行列になっている。[6] 従って、二次元古典系をいくつかの部分に切り分け、各部分を DMRG の処方に従って繰り込む事が可能である。

「. 角転送行列繰り込み群: Baxter は二次元古典系を四分割し、各部分 (Corner) を繰り込む処方を与えた。[7] Baxter の方法は、熱力学極限で DMRG に等しい。[8] 我々は、両者を包含する繰り込み群処方を与えた。これが「角転送行列繰り込み群」の方法である。[9]

」. 臨界指数の計算: 角転送行列繰り込み群と有限サイズスケーリングを組み合わせる事によって、二次元古典系の臨界指数を精密に求める事が可能である。[9] 例えばイジング模型の場合、算出された値は、ν=1.0006, η=0.2501 で、厳密解 (ν=1, η=0.25) と良く一致している。[6]

DMRG を二次元古典系から眺める事によって、同手法をより深く理解する事が出来る。

[1] S. R. White, Phys. Rev. Lett. 69 (1992) 2863 .
[2] S. R. White, Phys. Rev. B48 (1993) 10345.
[3] S. R. White: Preprint, cond-mat/9604129.
[4] S. Ostlund and S. Rommer: Phys. Rev. Lett 75 (1995) 3537; cond-mat/9606213.
[5] T. Nishino, J. Phys. Soc. Jpn. 64, No.10 (1995) 3598.
[6] T. Nishino and K. Okunishi, Summer School Note (1996).
[7] R. J. Baxter: J. Math. Phys. 9 (1968) 650.
[8] 奥西巧一: 修士論文、大阪大学 (1996).
[9] T. Nishino and K. Okunishi, J. Phys. Soc. Jpn 65 (1996) 891.
[10] T. Nishino, K. Okunishi and M. Kikuchi, Phys. Lett. A213 (1996) 69.