1998. 8. 9. 物性理論研究室・西野の回想

 はじめて砂川先生に出会ったのは、大学一年の終わり頃だったと記憶
している。学科担任の教授から「むかし砂川先生と Dirac の量子力学を
自主輪講した有志学生たちは、ひとかたの物理屋になった」と聞いて、
それならば我々も教えてもらおうと友人達とツルんで、砂川教授室のド
アをノックした。中から出てきたのは「想像していたのと全然違う」ギョ
ロリとした目の先生で、一同びっくりした。輪講については、多忙とい
うことで実現しなかった。

 それから、話を聞く機会が再々あった。いつも「●●は全然わからない」
と言ってたのが印象的で、例えば「BCS 理論は全然わからない」とか、
「Fermion の経路積分は全然わからない」といった具合。但し、フォロー
できないという意味ではなくて、形式や近似の必然性と厳格な哲学が底に
あるかどうかという点が不明だという意味のコメントなのだと、ずっと後
になって理解できた。

 教科書・理論電磁気学については、「少し難しく書き過ぎた」と語って
いた。ちょうど内山先生が相対性理論の本を易しくして岩波から出版しな
おしたように、砂川先生も近年「簡単な入門書」を目指していたようだ。

 大学院に上がる時には「研究室に入れるかどうか」質問しに行ったら、
定年まで一年しか無いから、教養部ではなくて理学部の研究室で学び続け
なさいと、諭された。名講議・量子電磁力学を M1 で受講できたのは幸い
だった。

 本棚から「散乱の量子論」を引っぱり出して、退官の時にもらったサイ
ンを見て、あっと驚いた。今の今まで「すながわ先生」だと思っていたの
に、サインは "S. Sunakawa" だった。