くりこみ群の考え方について: 1997 年 9 月 13 日の一般公演

 現代物理学の啓蒙書を開くと、統一理論・超弦理論・場の理論・超
伝導・ブラックホール・ビッグバン・相対性理論・宇宙論など「カッ
コ良さそうで難解そうな言葉」が目に飛び込んで来ます。これらに並
んで有名な物理学用語が「 (朝永の) くりこみ理論」でしょう。 理論
物理学を学んでいる大学生で、「くりこみ」の言葉を知らない人は居
ないほど有名といって過言では無いでしょう。ここでは、「くりこみ
理論」の兄弟にあたる「くりこみ群の理論」についてお話し致します。

 本題に入る前に、「くりこみ」という言葉について。日頃あまり耳
にしない言葉ですが、漢字を使って「繰り込み」と書きます。「糸を
繰る」という風に、「ややこしい物を何とかする・あやつる」という
意味を持つ「繰る」に、「中に入れる・意味を強める・しまう」といっ
た意味の「込む」がついて「繰り込み」という言葉が構成されていま
す。従って、「細かな込み入った現象はさておいて、ものごとを大ま
かに観察しましょう」という意味が「繰り込み」という意味に含めら
れています。類似の用語に「繰り越し」があって、こちらは「全部ま
とめて後回し」という意味ですから、こちらからスタートして「繰り
込み」の意味を理解していただいても結構です。

 さて、「くりこみ群」が対象とする "もの" は、細かな "部分" から
構成されているものです。例えば "世界" は "国家" の集まりで、国家
は市町村の集まりで、市町村は所帯 (又は個人) の集まりです。社会
に限らず、自然界にも同じような構造があり、"宇宙" は "銀河" の集ま
りで、銀河は星の集まりです。もっと身近な例では、"ごはん" は "米
粒" の集まりですね。もう少し物理的な例をあげると、"磁石" は実は
"小さな磁石" の集まりで、小さな磁石は鉄など「磁性」を持つ原子の
集まりです。

 ここで重要なポイントは、「小さな部分の性質が、多数決を通じて
大きな部分の性質を決めている」という事です。先にあげた国家の例
では、国政は国会議員の多数決により決定され、国会議員は選挙を通
じて住民の多数決により選出されます。 (この仕組みがうまく働いて
いるかどうかについては、深入りしないことにしましょう。) この場
合 --- 特に小選挙区性の場合 --- 各政党の支持率がほんの少し上下
するだけで、国会の構成がガラリと様変りします。国会では安定多数
を占めた会派が主導権を握りますから、国政は「世間で少しだけ多数
派」の意見を色濃く反映します。 (これが良いかどうかについては、
ここでは議論しません。) 小さな部分の性質が、大きな部分に「くり
こまれて」いるのです。

 上で述べた「多数決の原理」は、磁石や宇宙のような系についても
当てはめることができます。講義では、特に磁石の成り立ちと、それ
についての多数決原理について詳しく見て行く予定です。「くりこみ
群」を身近に感じていただければ、幸いです。