小さな子供が物の数を数え方を教わる時、まずは「ひとつ、ふたつ、
いっぱい! 」
という所から始めます。なぜそうなのか、考えてみた方
はいるでしょうか? 実は、
「集合と構成要素」という概念の区別は、
子供の目にも明らかなのです。例えば、炊き上げたご飯を観察しましょ
う。ご飯つぶ
「ひとつ」は、ご飯を構成する「単位」です。これは楕
円体の表面に少し粘着性を持ったもので、
「ふたつ」のご飯つぶは表
面同士が接触すると、ゆるく結合します。この
「つぶ」「いっぱい」
集まると、お茶碗によそったり、おにぎりにすることができます。明
らかに、
「おにぎり」「どんぶりメシ」「ご飯つぶ」は概念的に
別の物なのです。しかし、おにぎりとご飯粒の間には、
「ミクロから
マクロへ」
という確かな関係があるのです。

 (宇宙人に米粒一つを見せて、
   「おにぎり」を想像させられるでしょうか?
       これは無理なのではないでしょうか? )


 目を極微の世界に転じましょう。物体は原子によって構成されてい
ます。原子の組み合わせがほんの少し変化するだけで、様々な性質を
持つ物質が構成されているのです。物質の中で、原子一つ一つはそれ
ぞれの役割を果たしているにすぎないのですが、原子が数多く集まる
と思いもよらぬ性質を発揮するのです。 (専門用語で協力現象といい
ます。) 我々が目標とするのは、
「まず自然に学び」原子ひとつひと
つの性質と、それが集合した物質の性質を橋渡しすることです。この
目標は、今世紀に少しづつ達成されて来ました。次の世紀を目前にし
て、最近では
「自然に恩返し」することが出来るようになりつつあり
ます。つまり、原子を人工的に組み合わせて、様々な性質を持った物
質を合成することも可能になって来たのです。しかし、我々の持って
いる知識は、自然界の多様さに比べれば、まだ
「 3以上の数が数えら
れない子供のレベル」
にも達していません。日々、自然を謙虚にみつ
めて、それを説明しようとする、これが凝縮系物理というものです。

★ 余談 ★

 何でもやりすぎるのが日本人とドイツ人の悪い所。上の「おにぎり」の
例で行くと、「日本一のおにぎり」というアホウな物を作っては食い物を
オモチャにしている。ただ、物理的観点からみて、「おにぎりは、どこま
で大きくできるか? 」という問題は興味深い。「日本一のおにぎり」は、
大抵ピラミッド型で作るので、底辺より少し上で崩れることが多い。富士
山型にすると、もう少し大きくなるはずである。 (これが「おにぎり」か
どうかは別にして。) モチにすれば、もっと大きくできるはずであるが、
これとて「物理的限界」があるはずである。

 同じ米でも、生米は性質が全然違う。当然ながら、2 つの米粒はくっつ
かない。こんな米粒でも、集めた状態で圧縮すると、まるで固体の様に振
る舞う。米粒の表面での摩擦力が効いているのである。だから、米俵など
という物を作って、積み上げられるのである。ここでも、個と全体の性質
は似ても似つかない。面白い? かもしれない。