密度行列繰り込み群を通じて見る格子場

神戸大学理学部・物性理論研究室西野友年

 「分配関数を求めよう」というのは、統計力学のお題目。でも、余程の理想系でない限り、
分配関数は厳密に求まりません。え、それでも求めたい? ならば、計算機を使って求めてみ
ましょう。一例として、教科書的にイジング模型 (格子場の一例 ^^;) を考えると、横幅 N
の転送行列 T の次元は 2 の N 乗。

      1´2´3´4´5´6´7´8´
      ◯─◯─◯─◯─◯─◯─◯─◯
  T = │ │ │ │ │ │ │ │ ex. N = 8 の場合は 2^8 = 256 次元
      ◯─◯─◯─◯─◯─◯─◯─◯
      1 2 3 4 5 6 7 8

N=26 くらいまでなら、転送行列 T を対角化して最大固有値 λ と対応する固有ベクトル V
を求められますが、「もっと N を大きくしたい」という欲望は常にあるもの。そこで登場し
たのが、密度行列繰り込み群 (White,1992) という数値繰込み群の処方。上図の転送行列を例に
取ると、左右から 3 個のスピンをひとまとめ (■) の m < 8 状態変数に「くりこんで」

      L´    4´5´    R´
      ■─────◯─◯─────■
  T´= │     │ │     │ 行列次元は (2m)^2
      ■─────◯─◯─────■
      L     4 5     R

2^N 次元行列 T を『最大固有値をなるべく変化させないように』 より小さな (2m)^2 次元
行列 T´へマップして取り扱います。このマッピングの求め方が一風変わっていて、密度副
行列 ρ をまず求め、

     │ │ │ │ │ │ │ │ ※転送行列を積み重ねて、スピン配列につい
     ├─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤  て和を取ると、全系の分配関数 Z になる。
     │ │ │ │ │ │ │ │
     ├─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤ ※この上下に長い帯状の系の、ある所に長さ
     │ │ │ │ │ │ │ │  3 格子定数の切れ込みを入れる。
     ●─●─● │ │ │ │ │
 ρ =      >┼─┼─┼─┼─┤ ※切り口 (●─●─● と ◯─◯─◯) のス
     ◯─◯─◯ │ │ │ │ │  ピン配列を固定して、切り口以外のスピン
     │ │ │ │ │ │ │ │  (┼マーク) について配列和を取ったものが
     ├─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤  密度副行列 ρ。 (普段見なれないかな?)
     │ │ │ │ │ │ │ │
     ├─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤ ※当然ながら、Tr ρ = Z
     │ │ │ │ │ │ │ │

それを対角化して ρ の固有ベクトル m 個を「繰込み群変換行列」として採用します。この
アルゴリズムを採用すると、非常に高い精度で分配関数 Z を求めることができるのです。

 上の考え方は、情報圧縮の観点から「繰込み群とは何か? relevant な自由度とは何か? 」
を眺め直したもので『手計算にせよ、数値計算にせよ、精度の良い繰込み群変換を目指すな
らば、まず密度行列を作れ』という処方せんを与える点が重要です。また、 Wilson 繰込み
群では、繰込み群変換は小さいスケールから大きなスケールへの片道切符ですが、密度行列
繰込み群では、大きなスケールの物理が小さなスケールでの繰込み群変換に影響しています。

 さて、古典 (d+1次元)・量子 (d次元) 対応を通じて、密度行列繰込み群を格子上の場に
適用すると「massive な場の熱平衡状態 (又は基底状態) は、局所的なテンソルの積で充分
近似される」という結論を導けます。(...これが表題で言いたかったこと....) 実はここか
ら先が謎だらけで (1) Gaussian など連続自由度の系や、連続空間上で定義された模型の密
度行列繰込み群的取り扱い (2) maslessの量子系に対しても密度行列繰込み群が有効に働く
理由の解明 (現状:勝てば官軍的状況) (3) 可解系では「厳密な密度行列繰込み群」が出来る
らしい....など、場の専門家の得意そうな未解決の問題がゴロゴロしてます。貴方も参入し
ませんか?