密度行列繰り込み群 (DMRG) は、1992 年に White により開発された、
数値繰り込み群の手法である。 もともと、1次元量子系の基底状態を、
極めて正確に求められる方法として提案されたが、その後、これが行列
積型波動関数を用いた変分計算と等価であることや、2次元古典スピン系
に適用した場合はBaxterによる角転送行列の方法と関係が深いことなど
が明らかにされたことに伴い、その応用範囲も急速な広がりを見せている。
DMRGをとりまく現在の状況は10年ほど前の量子MCを彷彿とさせるもので
あると言えよう。また、その発展にあたっては日本人研究者の寄与が大
であった点も強調しておくべきだろう。
理論的にも実験的にも低次元量子系への興味が高まっていることを受け
て、DMRGを用いた計算例が次々と発表されている現時点で、第一線の研
究者を集めてDMRGの理論的背景や多彩な応用について議論を深めることは、
DMRGを現に行なっている研究者のみならず、低次元量子系・古典統計系
を扱う多くの研究者にとって有意義と考えられる。
本シンポジウムでは、まず DMRG の発端から現在までの経緯をまとめ、
続いて以下の要点について議論を深めたい。

(1) DMRG の理論的背景:

  数値計算法として DMRG の計算アルゴリズムは広く知られているが、
  DMRG が「なぜ正確な基底波動関数与えるのか」については、あまり
 論じられることがない。しかし、 DMRG により得られた計算結果を解
 析する際には、 DMRG の原理的な理解が不可欠である。 DMRG が、実
 は簡単な変分法の一種である点について、わかり易く解説したい。

(2) 1 次元量子系への DMRG の応用

   DMRG が、1 次元量子系の基底状態の解析に、いかに有効であるか
 を、2 つの代表的な応用例について紹介する。一つは、強相関電子系
 のモデルである近藤格子模型の解析である。励起エネルギー及び相関
 関数の精密測定について、具体的な計算手法も含めて触れたい。いま
 一つは、ランダムスピン系に対する応用である。ランダム系に特有の
 「反復計算に対する収束の悪さ」を克服する新しい数値アルゴリズム
 について解説し、理論的予言と計算結果を比較する。

(3) 2 次元古典系への応用

   1 次元量子系と 2 次元古典系は、密接に関係している。この関係
 を通じて、DMRG を 2 次元古典系の統計力学に応用できることがわか
 る。 2 次元古典系に対して DMRG を再定義することによって、密度
 行列の本質が、より明確になるであろう。また、2次相転移の臨界現象
の取り扱いについても実例を踏まえて議論する。

(3') 有限温度 1 次元量子系への応用

  量子転送行列法にDMRG を適用して、広い温度範囲にわたって 1 次元量
 子系の熱力学関数を求める試みが、ごく最近始まった。これは、 DMRG の新
 たな応用分野として、最も期待されるものの一つである。計算原理について
 説明し、今後の発展も含めて議論したい。